東京地方裁判所 平成11年(ワ)28877号 判決
原告 佐藤覚
被告 鹿島建設株式会社
右代表者代表取締役 梅田貞夫
右訴訟代理人弁護士 坂本成
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金二三四万二一五四円を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 平成四年七月二八日午後四時三〇分ころ
(二) 場所 東京都品川区東品川二丁目二番地一所在の三菱商事天王洲ビル建設工事(以下「本件工事」という。)現場の高層棟と低層棟(以下、それぞれ「高層棟」、「低層棟」という。)とをつなぐ二階の外部通路(以下「本件外部通路」という。)の天井部分(三階の高さに相当する。以下「本件天井部分」という。)
(三) 事故態様 本件天井部分におけるコンクリート打設工事作業(以下「本件作業」という。)に当たり、原告は流れるコンクリートを角スコップで平らにならしていた際、本件天井部分の低層棟側に設置されていた木製の型枠(以下「本件型枠」という。)の外の低層棟の壁面との隙間に右足がはまり込むように落ちた(以下「本件事故」という。)。
2 本件事故の結果
原告は、本件事故により、右大腿部打撲・挫傷、左第四指打撲・挫傷の傷害を負った。
3 責任原因(安全配慮義務違反)
(一) 被告は、本件工事を請負った元請会社であり、原告は、被告から下請けした株式会社大木組から更にコンクリート打設工事を下請けした石川重興業株式会社の作業員として本件工事に従事した。
(二) 被告は、本件工事現場に監督者を置き、作業の指示及び安全管理を行っていた者であるところ、本件型枠の外の窪みに蓋のようなものを設置して足場を作るなどしてここに体がはまらないような措置を講じ、本件天井部分での作業に従事する作業員の身体の安全を確保するように配慮すべきであったにもかかわらず、これを怠ったことが本件事故の原因である。
4 損害額の算定
(一) 医療費 五四万九〇七四円
(二) 通院交通費 一九万一四八〇円
(三) 休業損害 一六〇万一六〇〇円
一日当たり一万一〇〇〇円として、その八〇パーセントの一八二日分を請求する。
5 まとめ
よって、原告は、被告に対し、不法行為(安全配慮義務違反)に基づき、二三四万二一五四円の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1のうち、原告が平成四年七月二八日に本件工事現場で原告がコンクリート打設工事に従事していたことは認め、その余は不知。
2 同2は不知。
3(一) 同3の(一)は認める。
(二) 同3の(二)のうち、被告が本件工事の元請として工事現場を統括管理していたことは認め、その余は争う。
4 同4はいずれも不知。
理由
一 請求原因1、2(本件事故の発生及び原告の負傷)について
1 甲一、一〇から一二、乙一五から一七、一九、証人新島孝雄、同宇野正良(以下「宇野」という。)及び同横山雄二(以下「横山」という。)の各証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件型枠の高さ及び本件型枠と低層棟の壁面との間隔
本件天井部分は、高層棟と低層棟とをつなぐ本件外部通路を覆うものであって、両棟の三階の高さに相当する位置にあり、平成八年七月二八日の時点では、本件天井部分はコンクリート打設工事が未了であるためにコンクリート部分はなく、それゆえ鉄骨梁の上に敷かれたスチール板の床デッキスラブがむき出しの状態になっていた。本件天井部分と低層棟の壁面との間には、コンクリートを本件天井部分に流し込み、かつ、外に流れ出さないようにするために本件型枠が設置されており、右同日の時点では、前示床デッキスラブから見た本件型枠の高さは、約六〇センチには至らないものの概ね五〇センチ以上あり、人が足で跨ぐことができる程度の高さではあったと認められる(乙一六の資料<5>、証人宇野)。
また、本件通路部分は、地震による震動を伝導させないように高層棟、低層棟のいずれとも接着せずに独立して立地する耐震構造をとっているため、本件天井部分と高層棟及び低層棟の壁面との間には一定程度の隙間がある。それゆえ、本件型枠と低層棟の壁面との間にもある程度の隙間が設定されることになるが、その間隔は約一二・八センチ、本件型枠を支える鉄パイプと右壁面との間隔は約九センチであったと認められ(乙一六の資料<5>、証人宇野の証言)、片足が入り込むことが可能な程度の隙間であったと認めることができる。
(二) 原告の就労内容と本件事故の発生
原告は平成八年七月二八日夕方に本件天井部分において本件作業に関与し、コンクリートを角スコップでならしていたこと、その作業は一〇名前後の作業員で行われていたこと、同日夕方ころに原告が本件工事現場事務所で横山から負傷の手当を受けたこと、負傷の内容は右大腿部内側に拳大程の大きさの擦過傷であり赤くなっていたこと、手当の内容は消毒液による消毒にとどまったこと、原告は特に痛がる様子もなく「大丈夫」などと言って現場事務所を退出したことが認められ、以上によれば、原告の右負傷が複数の作業員と共同して行う本件作業中に発生したものであり、原告の主張に係る事故状況と前示(一)の認定事実とを総合すると、原告は、本件作業中に誤って右足を本件型枠と低層棟の壁面との隙間に踏み外したことによって右大腿部内側を負傷するとともに、自らの身体を支えようとしたために左手も負傷したものと認められる。
これに対し、本件事故の不存在又は本件事故が原告の故意によるものであるかのような意見も見受けられるが(乙二の1、2、三)、本件作業時に原告とともに本件作業に従事していた他の作業員からの事情聴取の具体的内容が明らかでなく、また、黒澤病院での治療を要した負傷が本件事故に起因したものかどうか疑われること(乙三)や原告に多数の労災給付歴があることに多分に影響されたと考えられ、必ずしも右認定を左右するには至らない。
2 結論
以上によれば、原告は、本件作業中に、少なくとも右大腿部内側の打撲・挫傷、左第四指打足・挫傷の負ったことが認められる(大腿部の外側の傷害については、これを認めるに足りる証拠がない。)。
二 請求原因3(責任原因(安全配慮義務違反))について
1 前示認定事実によれば、本件型枠と低層棟の壁面との隙間には特に蓋のようなものが設置されていなかったことは明らかである。
2 しかし、右隙間は六〇センチには満たないものの五〇センチ以上はある高さの本件型枠によって仕切られているため、通常の歩行又は作業をすれば本件型枠に足が衝突し、本件型枠の外側に出ることは容易にはあり得ないと考えられること、低層棟の壁面があるため上体が本件型枠の外側に出て墜落する危険は全くないこと(本件型枠に足が衝突してバランスを失ってもこの壁面に上体が当たるだけであって大事には至らない。)からすると、工事現場の安全管理を担う者は、足を高く上げて歩行するような作業を予定しない(すなわち、通常の歩行程度の動作が予定されている)本件作業を行う作業員が本件型枠の外側に踏み外すことを予期し、かつ、これに応じて本件型枠と低層棟の壁面との間の隙間を塞ぐような措置をとらなければならない義務を負うとまでは認め難いといわざるを得ない。
3 原告が誤って右足を本件型枠の外側に踏み外したことによって前示一のとおり負傷したことは認められるが、原告の損害賠償請求が認められるためには、原告の主張に係る本件型枠の外に蓋のようなものを設置することが、被告の尽くすべき安全配慮義務の一環として必要であったといえなければならないところ、前示二2のとおり、被告には、本件型枠外側の低層棟との隙間を塞ぐための措置を講ずべき安全配慮上の義務があるとまでは認められないから、結局、請求原因3には理由がない。
三 結論
よって、請求原因4(損害額の算定)を検討するまでもなく、原告の請求には理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 渡邉和義)